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怒りを抑える方法|メカニズムから考える怒りのコントロールと対処法

(2024年1月30日:追記更新)
怒りとは人の感情の中でも特に強くて激しいものです。そして、多くの人にとって怒りはあまり経験したくない不快な感情だと思います。

怒らずに穏やかな日々を送りたいと思っていても、どうしてもイライラしたり、我慢できずに怒鳴ってしまったりして、後悔を繰り返してしまいます。

この記事では、現時点で明らかになっている怒りのメカニズムを紹介し、怒りとは何か、怒りは手放すべきものなのか、怒りはコントロールできるのか、などについて考察してみたいと思います。

怒りとはなにか|進化、認知、生理の視点

怒りとは、人が持つ基本的な感情(驚き、喜び、悲しみ、恐怖、不安、嫌悪など)の中のひとつです。

基本的な感情とはいえ、怒りをひと言で説明することはとても難しいものです。

なぜなら、怒りという感情は、認知、生理、神経、社会が複雑に関わり合い、とても多層的・重層的な構造を持っているからです。

怒りの感情を知らない人はいませんが、怒りのメカニズムはあまり知られていないと思います。

記事の前半では、まず理論編として、怒りの機能、構造、定義などについて紹介していこうと思います。

私たちはどうして怒るの?|進化の視点

現在の私たちに怒りという感情が備わっているのは、長い進化の過程で怒りを獲得してきた、あるいは取り除かれなかったということです(サルも怒るので、たぶん取り除かれなかったというのが正しいと思います)。

すなわち怒りとは、「生存確率を上げ、自分の遺伝子を後世によりよく残す」ことに貢献していたと考えられます。では、怒りそのものの進化的な機能とは何でしょうか。それは、

侵害に対する自己防衛のための警告と攻撃

ということができます。怒りは私たちの生命と財産、権利を守るために必要不可欠な感情です。

したがって、怒りを手放すことはとても難しく、全く怒らない人になることはさらに難しいといえるでしょう。

どういうときに怒るの?|認知の視点

人が怒りを感じるには2つの条件が必要とされています。

ひとつは物理的または心理的な「被害」です。

物理的被害とは、大切な物を壊された、お金を取られた、などです。一方、心理的被害とは、約束の破棄、裏切り、無礼な態度、侮辱などです。要するに他者の行為、振る舞いですね。

ちなみに、物理的被害よりも心理的被害のほうが、圧倒的に怒りが強いことが実験で確認されています。

もうひとつの条件は「加害者の責任性」です。「避けることができたのに意図的にあいつが実行した」という、被害の責任が特定の他者にあるということが必要です。

すなわち、「嫌な思いをしたのは(被害)、あいつのせいだ(責任性)」と感じた時に怒りが生じると考えられています。

そして、被害と責任性の大きさをどう評価するかには個人差があります。

例えば、肩を叩かれて振り向くと、赤ちゃんがバブバブと手を動かしているのを見たとします。肩を叩いたのはその赤ちゃんの手でした。

それを微笑ましく思う人もいれば、「このガキ」あるいは「(親に対して)ちゃんと面倒見ろよ」と怒りを覚える人もいます。

他者のちょっとした振る舞いに悪意や敵意を感じ取りやすい人ほど、怒りやすいといえます。

臨床場面では、妄想性障害や、他者の気持ちを察することが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)傾向のある人が、「(こちらからすると)理由のはっきりしない怒り」を突然表出することがあります。

怒るとどうなるの?|生理的な視点

怒りの生理的な反応とは、「交感神経の急激な高まり」です。

交感神経が高まると副腎からアドレナリンというストレスホルモンが分泌され、心拍数の増加、血圧の上昇、筋肉の緊張、呼吸が早くなる、手が震える、瞳孔が広がる、発汗といった変化が起こります。

これは、火事場の馬鹿力を発揮できるよう、臨戦態勢に入っていることを意味します。要するに、攻撃の準備です。

尚、怒りの生起は、生理的変化が先なのか、それとも「あいつがやった!」という認知が先なのか、その順序については、実は明らかになっていません。

※交感神経、副交感神経の詳細についてはこちらをご覧ください。

怒り表出行動の分類|行動の視点

私たちは「怒り」と聞くと自動的に、暴れる、物を壊す、怒鳴る、罵倒するといった「攻撃」をイメージします。

しかし、怒りと攻撃はセットではありません。怒りを感じていても、ほとんどの人は攻撃(暴れる、怒鳴るなど)を我慢すると思います。

ここからは、怒りと攻撃の関係について見ていきましょう。

道具的攻撃

人は、怒りがないのに攻撃することがあります。何かを手に入れるために怒っているふりをすることです(これが威嚇です)。

パワハラを行う激ヤバなサイコパス上司や、スポーツ少年団の鬼監督などはこの典型だと思います。

勝利、名声、他者を思い通りにコントロールできる優越感などを手に入れるために、相手を攻撃します。そもそもベースに怒りは存在しません。

このように、相手に怒りも憎しみも感じていないのに加えられる攻撃のことを、「道具的攻撃」と呼びます。

道具的攻撃を用いる最たるものが銀行強盗です。ということは、激ヤバなサイコパス上司や、青少年を怒鳴り散らす鬼監督などは、攻撃の分類でいうと銀行強盗と同じです。

部下を虐待したり青少年を罵倒したりする行為を正すために、アンガーマネジメントや怒りのコントロールを行っても、残念ながら全く効果はありません。

敵意的攻撃

道具的攻撃に対して、他者を傷つける、痛めつける、罵倒する、侮辱すること自体が目的となっている攻撃を、「敵意的攻撃」と呼びます。

敵意的攻撃の行使には性差が認められています。

男性は殴る蹴るなどの「身体的-直接的攻撃」を使いやすく、女性は心理的あるいは社会的損害を生むような「言語的-間接的攻撃」を使いやすいようです。

ちなみに、怒りの強さに性差は確認されていません。男性も女性も、感じる怒りの強さは同じです。

※出典:『進化と感情から解き明かす社会心理学』 北村英哉・大坪庸介著 有斐閣アルマ


日本人の怒り表出行動について

日本人の怒り方(怒り表出行動)を調べた研究があります(大学生が対象)。

それによると、大きく7種類の怒り表出行動が抽出されました。結果を以下に示します。(木野和代 2000 「日本人の怒りの表出方法とその対人的影響」『心理学研究』70, 494-502)

1. 感情的攻撃 相手に対して怒りをぶつけ、相手を非難します。具体的には、「怒りをぶつける」、「詰問する」、「強く責める」、「感情的に反応する」などです。

2. 嫌 味 相手の態度に対して嫌みや皮肉を言うことです。具体的には、「文句を言う」、「嫌みや皮肉を言う」、「苦労を伝える」などです。

3. 表情・口調 相手を責めるようなことは何も言いませんが、非言語的な部分では怒りを示します。具体的には、「冷たい口調」、「怒りの表情」、「冷たい態度」、「乱暴な態度」などです。

4. 無 視 相手に対して何も反応しません。具体的には、「無視する」、「相手にしない」などです。

5. 遠回し 自分が怒っていることを遠回しにさりげなく伝えます。具体的には、「軽く言う」、「冗談のように言う」、「さりげなく言う」、「さりげなく理由を聞く」などです。

6. 理性的説得 けっして感情的になることなく、相手の言動の非を冷静かつ理性的に説明します。具体的には、「説得・説教」、「注意」、「理由をよく聞く」、「謝罪の要求」、「意思の主張」などです。

7. いつもどおり 気にしていないふりをして、いつもと変わらない態度で接します。具体的には、「ふだんどおり」、「平静にふるまう」、「調子をあわせる」、「怒りは示さない」、「聞き流す」などです。

◇◇◇

この調査の結果、他にも以下のようなことが明らかになりました。

まず、「遠回し」は欧米では見られない怒りの表出行動で、このような間接的で回りくどい表現方法は日本独自のものです。

また、最も頻繁に用いられる表出行動は、「遠回し」、「表情・口調」、「いつもどおり」であることが分かりました。

日本人は怒りを直接ぶつけるのではなく、やんわりと抑制的に伝えているようです。「いつもどおり」にいたっては、怒りを全く表現しません。

次に、理想的な怒り方、怒られ方を選択してもらったところ、怒るとき、怒られるときのどちらも、「理性的説得」の選択率が最も高くなりました。

しかし、実際に自分が怒ったときの表出行動となると、怒りを表に出すことのない、「いつもどおり」の選択頻度が最も高くなりました。

以上のことから、意識的に「理性的説得」を用いて怒りを表出することが、多くの日本人にとって理想的な怒り方になるといえるでしょう。(ちなみに、家族に対する表出行動は、「感情的攻撃」が多くなっています)

怒りは我慢したほうがいいの?

日本人は欧米人に比べて怒りの表出を抑制しています。日本人は「怒りを我慢する」といえそうです。

怒りを我慢すると、意見の対立を回避して穏便にことが進むと考えがちです。エネルギーの節約にもなりそうですね。

しかし、怒りを我慢することは本当に良いことなのでしょうか。進化の過程で取り除かれなかった怒りの機能を思い出してください。

それは、「侵害に対する自己防衛のための警告と攻撃」でしたね。怒りが湧いたということは、大切な何かが侵害された可能性があるということです。

身体的な攻撃は刑法に触れる可能性がありますのでお勧めできませんが(私たちと同じ遺伝子を持つ旧石器時代の人は頻繁に敵を撲殺していましたが...)、少なくとも警告は発する必要があります。

いつも侵害に甘んじていては、いずれ正当な権利すら脅かされかねません

やっぱり怒りは、適切な形で表出することが重要です(日本人であれば「理性的説得」が良さそうですね)。

どうしたら怒りが和らぐのか|鎮静化の視点

怒りが和らぐプロセスについてはっきりと分かっていることは、「時間とともに怒りは小さくなる」ということです。

「そんなこと知ってるわ!」という結果ですが、「こうすれば効果的に短時間で怒りが終息する」というテクニックを、今のところ私は知りません。

また、「どのくらいの時間で怒りが小さくなるかは個人差が大きい」ということも分かっています。

怒りの強さや状況にもよりますが、1週間くらいで終息するケースもあれば、数年にわたって続くケースもあります。こちらも、「そんなこと知ってるわ!」ですよね。

ただ、この時間経過の中で、怒っている当人が何をしているのかは、ある程度明らかになっています。

怒りを感じた瞬間は怒りそのものに注目し、どんどん怒りを強めるようなことを考えています。

怒りの表出については我慢する人もいれば、あらわにする人もいます。

怒りを表出する対象にしても、怒りの原因となった人に直接攻撃する人もいれば、物に当たる人、あるいは近くにいる第三者に八つ当たりする人まで様々です。

時間が経過すると、表出を我慢した人もあらわにした人も、怒りはかなり小さくなり、出来事を客観的に捉えられるようになります。この頃から第三者に相談する人が増え始めます。

さらに時間が経過すると、多くの人の怒りは終息していきます。整理すると以下のようになります。

【第1段階】 攻撃しやすい時期

最初に怒りを感じた瞬間からしばらくの期間です(長さには個人差あり)。

この段階では、敵意的攻撃(殴る、蹴る、怒鳴る、罵倒する)、八つ当たり、ぐっと我慢するなど、個人によって様々な行動パターンがあります。

敵意的攻撃を抑えるためには、怒りの対象(人です)から速やかに離れる必要があります。

【第2段階】 冷静に考えられる時期

第1段階からさらに時間が経過すると(こちらも長さに個人差あり)、怒りの出来事を客観的に捉えることができるようになります。第三者に相談する頻度も増えてきます。

怒りを高めるような思考を多用する人は、第2段階においても敵意的攻撃を実行する可能性がありますが、多くの人は攻撃を行わなくなります。

第2段階での敵意的攻撃を抑えるためには、思考をコントロールする必要があります。

思考をコンロトールしたうえで、日本人が好む「理性的説得」を実践できると、人間関係が破綻しにくくなるでしょう。

【第3段階】 過去の記憶になる時期

さらに時間が経過すると(個人差あり)、「怒りの経験は過去のことである」と認識できるようになります。

怒りの経験を冷静に受け入れることができていますので、敵意的攻撃を行うことは、ほぼなくなります。

怒りの定義について

さてここまで怒りのメカニズムを見てきましたが、そろそろ怒りについて定義づけしてみたいと思います。

数ある定義の中から、私が最も簡潔かつ網羅的だと思う定義をご紹介します。

【怒りの定義】
怒りとは、「自己もしくは社会への、不当なもしくは故意による(と認知される)、物理的もしくは心理的な侵害に対する、自己防衛もしくは社会維持のために喚起された、心身の準備状態」である。(湯川進太郎)


※出典:『怒りの心理学』 湯川進太郎編 有斐閣



この定義には「もしくは」という言葉がたくさん出てきます。ここに怒りの重層的な複雑さが現れていると思います。

さらに、怒りは攻撃とイコールではなく、攻撃も含めた次の行動を決めるための準備状態という部分がとても重要だと思います。

怒りのコントロール|対処法

ここまで怒りのメカニズムについて見てきましたが、それを踏まえて、ここからは怒りのコントロールについて考察してみたいと思います。

怒りのコントロールとは、完全に我慢することでも、好き放題に表出することでもない、第三の方法を模索することです。

怒りをコントロールする方法として、たくさんの手法が提唱されています。代表的なものを挙げてみましょう。

■リラクセーション■
 ○呼吸法
 ○漸進的筋弛緩法
 ○自律訓練法
 ○ヨガ etc.
目的:主に生理的反応を軽減するために行います。

■認知行動アプローチ■
 ○認知再構成法(コラム法)
 ○ACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)
 ○マインドフルネス|瞑想
 ○SST(ロールプレイ) etc.
目的①:怒りを生じさせる思考を修正します。
目的②:思考によって生じる行動を修正します。

◇◇◇

どれも効果がありますが、残念ながらここに挙げた方法は手軽には行えません。

どれも専門家の指導のもとで正しい手法をマスターしなければなりませんし、何よりも毎日の生活に取り入れて定期的に訓練する必要があります。まさに修行です

怒りが湧いた時にだけ、思い出したようにちょこっとやっても全く意味はありません。

ということでここからは、なるべく手軽に簡単に、そして一人でもできる方法を中心に紹介していきます。

怒りのコントロールに取り組める人

本題に入る前に、もしあなたが「怒りを何とかしたい」と考えているのであれば、以下のことを自分に問う必要があります。

①怒りの感情と生理的反応の有無(他者支配の道具的攻撃ではないのか)
②攻撃の有無(怒りを表出しているか、我慢しているか)
③攻撃の目的(相手を傷つけたいのか、何かを手に入れたいのか)
④怒りの対象と属性(弱い者いじめか、正義のためか)
⑤自分の怒りに苦しんでいるか、快感を覚えているか

もし、モノ・カネ・名誉・優越感などを手に入れるために、怒りの感情がないのに攻撃を行っていて、その相手が自分の支配下にあり、攻撃することに快感を覚えているのであれば、怒りのコントロールは効果がありません。

「6秒ルール」や「すべき思考を手放す」という手法で良く知られるアンガーマネジメントも全く効果はありません。

この様な人には、怒りの対処とは全く異なるアプローチを考えなければなりません(加えて、「どうしても改善したい」という本人の揺るぎない決意が絶対的に必要です)。

怒りのコントロールやアンガーマネジメントに取り組むことができる人とは、生理的反応を伴う怒りがあり、その怒りを何とかしたいと強く願っている人だけです。

怒りの対象から直ぐに離れる|敵意的攻撃の防止

では本題に戻りましょう。

先述したとおり、時間とともに怒りが小さくなるということは、最初に怒りを感じた瞬間が最も怒りが強く、敵意的攻撃(殴る、蹴る、怒鳴る、罵倒する)を実行してしまう可能性が高くなります。

怒りをコントロールする一番の動機は、やはり敵意的攻撃を抑えたいということでしょう。

第一撃として敵意的攻撃を加えてしまっては、鎮静化の第2段階に入って冷静に考えられるようになったとしても後の祭りです。

万が一、相手にケガを負わせてしまったら、逮捕される可能性すらあります。

カチーン!と強い怒りが生じたら、先ずはその場から離れることが第一選択になります。

自衛隊心理幹部である下園壮太氏も提唱していますが、「不本意でも、その場ではたとえ謝ってでも、刺激(相手)から物理的な距離をとる」という戦略は、とても重要だと思います。

※出典:『イライラ・怒りをとる技術』 下園壮太著 朝日新書



敵意的攻撃を何としてでも封印して、時間を稼ぎ、鎮静化の第2段階に早めに到達することを優先すべきです。

役割期待のずれの検証

相手から物理的に距離をとって、時間を稼いで、鎮静化の第2段階に到達したら、思考をコントロールしてみましょう。

この段階で、「どうやって復讐してやろうか」などと怒りを高める思考をすると、怒りは小さくならず、敵意的攻撃を実行してしまう可能性が高くなります。

鎮静化の第2段階に到達したら、復讐の思考ではなく、「役割期待のずれの検証」を行っていただきたいと思います。

この手法を、精神科医である水島広子氏の著書で見つけて、その効果と深い見識に驚きました。

怒りという「瞬間的な認知処理の不合理さ」と「人間関係トラブル」の関係について、見事に検討されています。

以下にその内容を記します。

①自分は相手に何を期待しているのか
②それは相手にとって現実的な期待なのか
③自分の期待は相手に伝わっているのだろうか
④相手は自分に何を期待しているのか
⑤相手が本当にそれを期待していると確認したか
⑥相手からの期待は自分にとって問題なく受け入れられるものか
⑦受け入れられない期待であれば、どのように変えてもらったらよいか

※出典:『「怒り」がスーッと消える本』 水島広子著 大和出版



怒りを感じてその場を離れて少し冷静になったら、その相手のことを思い浮かべながら、ひとつずつ丁寧に噛みしめながら7つの文章を読んでください。心に浮かぶことをしっかりと吟味します。

きっと、「よくもまあ、何の情報も持たずに、嫌な思いをしたのは(被害)、あいつのせいだ(責任性)と決めつけたものだ」と気づけると思います。

怒りを感じるたびに「役割期待のずれの検証」を何度も繰り返してください。そうすることで、鎮静化の第3段階に早めに到達できるようになります。

復讐を考え続けることで遅れてやってくる敵意的攻撃も回避することができるでしょう。

理性的説得を行う|DESC法

役割期待のずれの検証を行って怒りが落ち着いたら次のステップです。

もし出来事を冷静に振り返った結果、権利が侵害されていると感じるのであれば、「理性的説得」を使って怒りを表明しましょう。

自分の気持ちをきちんと主張しながら、相手の意見も尊重する。そんなコミュニケーションを心がけます。

その助けになるのがDESC法です。以下の流れで感情的にならずに自身の要求を伝えます。

◇◇◇

D(Describe) 客観的な状況や相手の行動を伝える【客観的事実】
例)「私は〇〇をしていただけなのに、あなたは私に△△と言いました」

E(Express) 自分自身の主観的な気持ちを明確に表現する【主観・感情】
例)「私は悔しくて、強い怒りを感じました。今も怒っています」

S(Specify) してほしいことを具体的に提案する【要求】
例)「だから私に謝ってください」

C(Choose) 相手の反応によって選択肢を示す【再要求】
①相手「謝りたくない」→「じゃあ、なぜあんなことを言ったのか理由を教えてください」
②相手「ごめんなさい」→「これで終わりにします」、「次から気をつけてください」 etc.

コツは、最初に客観的事実を伝えて、次に主観としての感情を伝えることです。

相手は、いきなり感情をぶつけられることがないので、比較的冷静にあなたの言葉を聞くことができます。

相手が、「客観的な状況」と、その結果生じた「あなたの正直な感情」を認識したところで初めて、あなたの要求を突きつけます(ここが心理的にいちばん難しいですよ。勇気をもってあなたの要求を伝えましょう)。

このステップを踏むことで、「ムカついてんだよ!謝れよ!」などと感情をぶつけることなく、冷静で建設的なコミュニケーションを行うことができます。

怒りを冷静に振り返った結果、自分にも非があったと思い至った場合には、勇気をもって謝罪することも、怒りの対処としては必要なことだと思います。

怒りの肯定的な機能として、人間関係の再構築があります。怒りを介したコミュニケーションだったからこそ、人間関係が深まることもあるのです。

筆記開示法

最後に、怒りの対象に2度と会うことができないなどの理由で、上記のDESC法が使えない場合には筆記開示法がお勧めです。

また、理性的説得といえども、どうしても怒りを表明することができず、長く怒りが続いている場合にも使えます。

紙とペンさえあればいつでもどこでも行えます。やりかたは簡単です。15分から30分、ノートに文字を書き続けるだけです。

先ず、書き上げた文章を絶対に誰にも見せないと決意します。そして怒りに関する思考をそのまま書いていきます。

暴言、不謹慎、反社会的、恥ずかしいことなど、どんなことでも思考の通りに書いてください(そのために誰にも見せないことを最初に決意するのです)。

書くことが出てこなくなったら、その直前の文章を書き続けても良いですし、「書くことがない、どうしよう」と書き続けてもOKです。とにかく書き続けます。

再び思考が出てきたら、「あ、思考が出てきた、~~」と書き続けます。

15分から30分くらい続けると怒りが小さくなり気分がすっきりします。(ちなみに、仕事などのアイデアをまとめる時にも使えますよ)

なぜこの方法で怒りが小さくなるのでしょうか。それは、書くことでネガティブな思考と感情が紙面にあらわになり、怒りの経験に心が慣れていくからです(これを曝露法といいます)。

要するに筆記開示法は、認知療法と曝露法を同時に行っているのに近い効果が期待できるのです。

注意)非常に手軽に簡単に行える筆記開示法ですが、ひとつ注意点があります。それは、メンタル疾患を治療中の方が行うと症状が悪化する可能性があることです。

現在治療を受けている方は、必ず主治医や担当カウンセラーの管理のもと、筆記開示法を行ってください。

※出典:『感情心理学・入門』 大平英樹編 有斐閣アルマ


私が考える怒りとの付き合いかた

最後に、私の考える怒りとの付き合いかたを紹介して、このブログを終わりにしたいと思います。

怒りの生起に認知は介在していない??

私は、怒りに限らず全ての感情は、無意識下の脳内で必要に応じて自動的に情報処理が行われ、認知を一切介在することなく生じているのではないかと考えています。

「何が被害で、誰の責任か」といった認知は、生じた感情の理由を後づけで脳に思わされているのではないかということです。

近年の神経科学や認知科学の研究成果と、私自身の臨床経験の実感からそう思うようになりました。

出来事を経験して、カチーン!と怒りが湧くまでは、ほんの一瞬です。

こんな短時間で、複雑な認知処理(被害と責任性の判断、過去の記憶への照会、生理的反応の分析など)を行って初めて、怒りが生じているとはとても思えないのです。

まず怒り感情が生じて、理由は後づけということです。

ということで、怒りというものは、「生じるものは生じる」ということかもしれません(脳だけは理由を知っていますが、意識は怒った本当の理由を知ることができません)。

私が考える理想的な怒りのコントロール戦略

こうした視点で考えると、怒りを感じた瞬間に物理的にその場を離れるという戦略は理にかなっていると思います。

そして、役割期待のずれの検証を行い鎮静化の第2段階に入ってから、DESC法で怒りを上手に表明するか、それとも筆記開示法を行うかなど、次に取るべき行動を検討すれば良いのではないでしょうか。

私が考える怒りとの付き合いかたは、怒りが生じたら、「ごめん、いま怒りが湧いた。攻撃するかもしれないから離れる」と相手に宣言して、一目散にその場を離れることです。

相手は、「怒りならしょうがないか」と見守ります。下品な例で恐縮ですが、下痢に襲われてトイレに駆け込むようなものです。我慢できないのだからしょうがない。

反対に、相手の怒りに気づいた時は、たとえそれが上司であっても、「今あなたは怒っているようなので、いったん離れます。怒りがおさまったら教えてください」と本人に伝えてその場を離れ、物理的な距離をとります。

これが同意のうえで気軽に行えたなら、お互いに建設的な対応が可能です。

これは、個人による怒りのコントロールとか、個別の心理療法などを越えた、社会的コンセンサスが必要な難しい戦略になりますが、成熟した社会として実現したらいいなと空想しています。

まとめ

様々な視点から怒りを見てきましたが、怒りを網羅的に記述しようとするとどうしても複雑になってしまいます。

怒りを理解するには、認知、生理、攻撃、社会的な意味、さらに無意識下での脳の情報処理と認知の関係など、俯瞰的に捉える必要があります。

また、この記事では触れませんでしたが、加害者を許すことや謝罪を受けることの機能、遺伝子(怒りの進化的機能)と社会制度(特に刑法)との関係なども射程に入れて、怒りのコントロールを考える必要があるでしょう。

これが感情としての怒りをコントロールすることの難しさです(とっても身近な感情のひとつである「悲しみ」でさえ、その存在理由、機能、メカニズムは、実はほとんど解明されていないのです)。

不用意な怒りの表出が敬遠されつつある現代社会において、怒りとの付き合いかたのより良いヒントが得られるよう、さらなる科学的な解明に期待したいと思います。

◇◇◇

※この記事を執筆するに当たって、様々な怒りの研究成果を簡潔かつ網羅的に知ることができる以下の書籍を参考にさせていただきました。

※出典:『怒りの心理学』 湯川進太郎編 有斐閣





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松村メンタルサポート事務所

代表:松村 英哉(まつむら えいや)

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