Column お役立ちコラム

能登半島地震から1か月|急がれる心のケアとメンタルヘルス対策とは

能登半島地震の発生から2月1日で1か月が経ちました。長引く避難生活のなかで、心のケアが喫緊の課題となっています。

この日のニュース番組は、いつもより長い時間をかけて震災のその後を特集していました。

想像を絶する大きな揺れ、家の倒壊、津波、慣れ親しんだ街並みの変貌、避難所に蔓延する感染症、そして何より、大切な家族を亡くしてしまった方々の悲痛な映像を目の当たりにして、言葉もありません。

被災した方々の心はいま、様々な感情が現れたり消えたり、あるいは時が止まったようになっているかもしれません。

地震の発生から1か月。そこで私が目にした報道をもとに、災害時の心のケアについて、ちょっぴりですが考えてみたいと思います。

「能登半島地震から1カ月 より繊細な心の支援を」(産経新聞)

同日のネットニュースで、「能登半島地震から1カ月 より繊細な心の支援を」(産経新聞)というニュース記事を見つけました。

概ね以下のようなことが書かれていました。

◇◇◇

避難所生活の長期化はメンタルヘルスに影響する。なぜなら、被災者はつらさを抱え込んでしまうからだ。本人が「大丈夫です」と言っても大丈夫ではないこともある。

したがって、被災者同士が、被災者と支援者が、寄り添い、受け止め、気持ちを共有して、不安と孤独を軽減することが大切である。

一方で、支援者がよかれと思って掛けた言葉が、被災者の負担になることもある。支援者は、被災者の心情をおもんぱかり、繊細に対応することが求められる。

筑波大の「災害・地域精神医学」講座は、能登半島地震発生から3日後に、心のケアに関する留意点をまとめたメッセージを出した。(全文はこちら

重要なのは、心や体に不調があれば我慢しないで助けを求めることである。そのためには気軽に話ができる環境を整備する必要がある。

安心な場所で、きちんとした生活を送ることができる総合的な支援が被災者のメンタルヘルスに欠かせない。

◇◇◇

このニュース記事では、
①我慢しないで助けを求めること
②総合的な支援が欠かせない

この2つが強調されていたように思います。

「遺族などをケアする際のポイント」(NHKニュース7)

同日のNHKニュース7では、「遺族などをケアする際のポイント」が紹介されていました。

【遺族などをケアする際のポイント】
■悲観の反応には個人差あり
■聞き役に徹する
■傷つけてしまう可能性ある言葉も 「気持ちはわかる」、「生きていてよかった」など
■そっと「寄り添う」
(日本DMORT理事長 災害医療に詳しい吉永和正さん提供)


番組内では、アナウンサーが以下のような解説を行っていました。

◇◇◇

まず知っておくこととして、悲観の反応には個人差があるということです。

1か月が経ち、起こったことをある程度受け入れている人もいれば、全く受け入れられないという人もいます。

したがって周りの人は、聞き役に徹すること、良かれと思ってかけた言葉が相手を傷つけてしまう可能性があること、そして、そっと寄り添い、必要な時に手を差しのべるという気持ちを大切にしてください。

「避難長期化で心のケア課題」(時事通信社)

2月2日には時事通信社より「避難長期化で心のケア課題 睡眠不足や認知症悪化も 『困ったら相談を』・能登地震」というニュースが配信されていました。概要は以下の通り。

◇◇◇

避難所生活の長期化に伴う被災者の心のケアが課題となっている。

日本精神科病院協会の災害派遣精神医療チーム(DPAT)事務局は、「困ったことがあれば声を掛けてほしい」と話している。

珠洲市には、「眠れない」、「死にたい」、「認知症が悪化した」、「PTSDの女児がいる」などの情報が寄せられている。

全体的に心のケアのニーズが高まっている。国や社会全体で手厚い支援をすることが重要である。

◇◇◇

こちらの記事では、
①困ったことがあれば声を掛けてほしい
②国や社会全体による手厚い支援が重要である

この2点が強調されていると感じました。

心の健康を守るために必要なこと

このようなニュースに接して、被災者の心の健康を守るために必要なのは、次のことなのだと思いました。

①命の危険を脱して一息ついたら、次は積極的に誰かと会話をしましょう
②しかし、遺族や被災者を傷つけてしまうことがあるので、支援者は想像力を働かせて繊細に話し掛けましょう
➂できれば被災者から声を掛けやすいような環境を作りましょう


周りの人は遺族や被災者に対して、「いつも近くにいるよ」、「いつでも話を聴くよ」、「何でも言ってね」というメッセージを言葉や態度で示し続けることが、一番のケアになるということでしょう。

そのおかげで自発的に相談しやすくなる人が増えるのなら、それは素晴らしいことです。

しかし問題は相談に来てくれない人、なかでも最も深刻なのは、心が不調に陥っていることに気づかない人たちです。

ストレス反応の軽減にも大きな個人差あり

大きな災害を経験すると誰でも、不眠、フラッシュバック、音に敏感になる、気分の落ち込み、逆に覚醒状態、喪失感、罪悪感などが生じます。これは危機を乗り越えるための正常なストレス反応です。

大多数の方は外部の支援を受けたり、時間の経過とともに、これらのストレス反応は落ち着いていきます。

しかし、少数ですが、数か月が経過してもストレス反応が消えず、PTSD、うつ病、不安障害、アルコール依存症などに陥る方が出てきます。

多くのメンタルヘルス不調は、思考が不合理になることで進んでいきます。非現実的な信念が優勢になることで、自発的に支援を求める術を失ってしまいます。

そのような人たちをどのようにすくい上げるのか。

思考の不合理さを客観的に知ることができない以上、その人たちを見つけ出すのはとても難しいことでしょう。

NHKのニュースでも言及されていましたが、悲観の反応には個人差があります。とても大きな個人差です

絶望と希望を行ったり来たりしながらも、ひとり現実を受け入れ、新しい人生を切り開く人もいれば、絶望しか見えず立ち直れない人もいます。

心の問題は目に見えません。同じように振る舞っていても心の中は一人ひとり違うのです。

目の前にいる人が立ち直れる人なのか、それとも、その場に立ちすくんでしまっているのか、誰も知ることができません。本人にも判断できない可能性があります。

解決策はあるのか、とても悩ましい問題です。

「総合的な支援」、「手厚い支援」とは何か?

精神科領域の専門家(精神科医、保健師、精神科看護師、精神保健福祉士、公認心理師 、介護福祉士etc.)が被災地に入り活動することはとても重要なことです。

眠れない、気分が落ち込む、不安といった症状に対して薬を処方したり、相談に乗ったり、カウンセリングを行ったりすることは、被災者のメンタルヘルスの向上にとても効果があります。

この活動は精神科医療や福祉が被災地にやって来て、医療や支援を希望する人にそれを届けるという機能を持ちます。

さらに、支援を周囲に「見せる」ことで、助けを求めることをためらっていた人が、支援を求めてみようという動機づけにもなるでしょう。

しかし、「心のケア」とは、一般に思われているような「精神科的なケア」とは異なるのではないでしょうか。生活全般をケアするという壮大なケアを指すのではないかと思うのです(これが一番困難ですが)。

地域、家族、友人、住む場所、寝る場所、トイレ、下着、お風呂、お金、食事、体の病気の治療など、生きていくために関係する全てです。

全ての支援が「心のケア」につながる

ニュースで言及される「総合的な支援」、「手厚い支援」とは、この膨大な支援のことを指しているのだと思います。

そして、もし「断片的で手薄な支援」しか行われていないのであれば、そこに「精神科的なケア」が生じてくるのでしょう。

未曽有の災害が起こったときに必要となる「心のケア」とは、生きることの全てを支援すること、その中のごく一部に精神科的なケア、メンタルヘルスのセルフケアが含まれるに違いありません。

国や自衛隊、警察と消防、地方自治体、生活関連企業の支援、ボランティア活動などなど。これら全ての支援が「心のケア」になっていると思います。

そして、自殺リスクのある方やお酒をたくさん飲んでいる方への介入、認知症の方のケア、精神障害者施設の入所者への支援などが、精神科領域の専門家が本領を発揮する「現場」なのだと思います。

まとめ

震災の発生から1か月の節目に被災地の心のケアについて考えてみました。

心のケアとは何も特別なことではなく、「生活全般を支援すること」、「生きることを支援すること」だと再認識しました。

仮設住宅を建設することも、そこに入居する人をくじ引きで決めるのではなく、隣近所が一括して入居するという工夫も、全て「心のケア」につながると思います。

そして、精神科領域の専門家たちが、それこそ本領を発揮している「現場」での活躍を、もう少し多めに報道していただきたいなとも思いました。

最後に、今回被災地での心のケアを考えてみて、「心のケア」と「精神科的ケア」は分けて考える必要があるということに気づかせていただきました。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。