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教員の精神疾患による休職が過去最多に|原因と対策を考える

「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」が、2023年12月に文部科学省から公表されました。

それによると、精神疾患で昨年度休職した公立学校の教員は6539人と、初めて6000人を上回り過去最多となりました。

この記事では、増え続ける教員の休職の原因と、どうすれば休職者を減らすことができるのかについて考察してみたいと思います。

教員の精神疾患による休職者割合の実態

「教員の休職者数が過去最多!」という、とても目を引く報道がなされています。最多といえばそうなのでしょうが、実態はどうなのか、民間企業の精神疾患による休職者と比較してみたいと思います。

※出典:令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査


教員の休職者割合

上の表は、文部科学省が公表した学校別の休職者割合の経年変化です。ここ3年は増え続け、令和4年度の休職者割合は0.71%となっています。

※出典:詳細はこちら


民営事業所の休職者割合

こちらの表は、厚生労働省が公表している民営事業所の休職者割合の調査結果です(令和3年11月1日~令和4年10月31日)。

事業所規模による休職者割合のバラツキが0.3~1.0%と大きいのですが、全産業での休職者割合の平均は0.6%となっています。

※出典:令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)


教員の休職者は多いのか少ないのか

公立学校の教職員数は、かなりのマンモス校でも60~70名程度です(Gaccomより)。

社員が10~70人程度の民営事業所と比較すると約1.4~2.4倍の教員が休職していることになります。多いですね。

一方、従業員500人以上の大きな企業の休職者割合は1.0%ですから、それと比較すると、教員の休職者割合は約70%と低く、日本全体で見ると、教員の精神疾患による休職者が突出して多いとはいえないようです。

ちなみに、大企業の休職者割合が高い理由は、所得補償制度の充実や、代替人員の確保のしやすさなどの、「休みやすさ」にあるのかもしれません。

一方で、精神疾患による退職者割合を見ると、小規模企業も大企業も0.2%と同じです。ということは、小規模企業の社員が、「休職できないから退職している」とはいえないようです。

理由ははっきりしませんが、大企業のほうが精神疾患に『罹患して休職しやすい』ようです。

話を教員に戻しましょう。

教職員の人数だけで見ると公立学校は中小企業規模ですが、休職者については、社員が100~499人の中堅企業並みといえます。

やはり学校には、民間企業とは異なる特有の休職要因があるのかもしれません。

教員の精神疾患による休職の原因について

報道を見ると、教員の休職の原因について、以下の2点がクローズアップされています。
①仕事量が多い
②保護者からのクレーム対応

●参考となる報道
東洋経済オンライン 2024/01/29
NHK NEWS WEB 2023/12/22

では次章以降、それぞれの実態について詳しく見ていきましょう。

仕事量が多い

厚生労働省による「令和4年版 労働経済の分析」によると、国が示す「過労死ライン」である月80時間以上の残業(週の労働時間が60時間以上に相当)を行った民間企業の労働者の割合は、5.0%(男性7.7%、女性1.8%:2021年)でした。

一方、文部科学省が公表した「令和4年度 教員勤務実態調査 速報値」によると、月80時間以上の残業を行った教諭は小学校で14.2%、中学校で36.6%でした。

民間企業と比べて、過労死ラインを越える月80時間以上の残業を行った教員の割合は、小学校で約3倍、中学校にいたっては約7倍強という驚くべき結果でした。

また、睡眠が6時間を下回り、抑うつ度が高まるとされる月50時間以上の残業(週の労働時間が52.5時間以上に相当しますが、データがないので週の労働時間が55時間以上で算出)を行った教諭は小学校で34.2%、中学校で56.9%でした。これはひどい。

労働時間が極めて長い。このことが意味するのは、「睡眠時間が絶対的に不足している」ということです。

慢性的な睡眠不足はメンタルヘルスに重大な悪影響を及ぼします。

睡眠時間/抑うつ度/残業時間の関係についてはこちら

保護者からのクレーム対応

私は教職に就いたことがありませんので(学校のストレスチェック実施者の経験はあります)、保護者からのクレームの実態については関連する書籍を参考にさせていただきました。

どの様なクレームがあるのかというと、

■先生が学級で、「Aさんは今日は風邪でお休みです」と言ったところ、別の保護者が、「個人情報保護に反する」と訴えてきた
■箸をうまく使えない息子に気づいた父親が、「いったいどんな給食指導をしているのか」と学校にクレーム
■児童の問題行動を保護者に連絡すると、「子供の個性を尊重しろ!」と逆ギレ etc.

※出典:『教師の悩み』 諸富祥彦著 ワニブックス



さらに、
■「うちの子の嫌いなものは給食に出すな」と言ってくる
■発表会の劇で、「うちの子は、なぜ主役をやらせてもらえないのか」という苦情が殺到した
■音楽会のピアノ伴奏者を選考したところ、「選考結果に納得できない。選考基準を示してほしい」との苦情が入る etc.

※出典:『教師という接客業』 齋藤浩著 草思社



といったものです。

どれも信じられないものばかりですが、これが実態のようです。学校はサービス業ではないのですから、どれも筋違いな要求だと思います。

ところが教育委員会と管理職(校長、教頭)は、「どの様なクレームにも誠心誠意対応せよ」というスタンスなのだそうです。

おもてなしやきめ細かい対応は日本人の美点でしたが、時代が変わり、その美点を逆手に取り、わがままな要求を押しつけてくる迷惑な人たちが増えたようです。

学校とは何を行う場所なのか分からなくなります。

ここまでくると、学校の役割を明確に再定義して、できることとできないことを国や教育委員会が社会に発信(いやむしろ主張)していくことが必要なのではないでしょうか。

公教育とは一種の国家プロジェクトですから、方針は保護者ではなく、国または教育委員会が決めるべきです。各学校はその方針に基づいて教育活動を粛々と行う。

学校と保護者がそれぞれ負うべき責任を明確にして、利己的な保護者の要求には毅然とした態度で臨む必要があるでしょう。

精神疾患による休職者を減らすには

ここからは、「どうすれば教員の精神疾患による休職を減らすことができるか」について考えてみたいと思います。

ここで特に強調しておきたいのは、何よりも、「精神疾患による休職を減らす」というただその一点にのみ的を絞って考えてみるということです。

様々な歴史的背景や利害関係、教育現場の文化や風土、価値観の多様化など、一筋縄ではいかない要因が絡み合っていることは承知しています。

そのうえであえて単純化して考えてみたいと思います。

睡眠時間の確保と不安の軽減

心因性(いわゆるストレスが原因)の精神疾患で休職した人の中で、休職前にぐっすり快眠だった人を私は見たことがありません。

逆に健康な人はみな、質の良い睡眠を十分に取っています。

ということは、毎日7~8時間の睡眠さえ取れれば、(特に心因性の)精神疾患の大部分は防ぐことができます。教員の精神疾患を防ぐための第一の条件は、「毎日7~8時間眠ること」です。

全ての教員が7~8時間眠るためにはどうすれば良いか。それは労働時間を短縮することです。それ以外にありません。単純なことです。

●現状では労働時間を短縮できない?
●それでも休職者を減らしたい?

だったら、あの手この手を使って、週に数回は残業せずに早めに帰宅して寝るしかありません。

休職していない残り99.29%(100%-0.71%)の教員が行っているであろう、自身の健康を守るコツを見習うことも重要です(これがセルフケアです)。

もし、「真面目で責任感が強いから早く帰れない」のなら、その教員の、「精神疾患に突き進んでいる認知と行動」(多くは不安という脳内フィクションが原因です)を修正し、「寝ようよ」と背中を押すような支援が必要です。

不安は自分の中で生じるものですから、自分でコントロールしなければなりません。ただ、不安を口に出しやすく相談しやすい職場を作ることも大切です。

教員の精神疾患を防ぐ第二の条件は、「ぐっすり眠るために不安を軽減する」ことです。寝ないと絶対にダメです。不安は睡眠を奪います。

業務を教育に特化して恐怖を取り除く

次に、どうすれば労働時間を短縮できるのかを考えてみましょう。それは、学校教育に関係のない業務と、優先順位の低い業務を廃止することです。

どの業務を廃止するのかについては、「学校で行うべきこと」を再定義することが必須となります。

そのうえで、教育分野の専門家が歴史的背景や利害関係、教育現場の文化や風土、価値観の多様化などを考慮して具体的に検討してほしいと思います。

私の個人的な意見を言わせていただくならば、理不尽な保護者の要求に誠心誠意対応するという業務は有無を言わさず廃止です(正当なクレームには耳を傾ける必要がありますが)。

また、休日を奪う部活の指導も当然、検討に上がるでしょう。お盆・正月・祝日・日曜日は部活動を禁止にしても良いと個人的には思います。

教員が本来やるべき業務が明確になることで、未処理業務の積み上がりや、保護者からのハラスメントを遠ざけることができます。

未処理業務の積み上がりとハラスメント被害は、どちらも「現実の恐怖」です。時限爆弾と化した未処理業務の山とハラスメントが待ち構えている職場になんか、行きたくなくなるのは当たり前です。

恐怖を慢性的に受け続けると、休職するほどメンタルヘルスが悪化します(パワハラが典型例ですね)。

教員の精神疾患を防ぐ第三の条件は、「職場から恐怖を取り除く」ことです。

絶対に必要な業務を厳選して毎日7~8時間の睡眠を取る。これで教員の休職の大部分は防ぐことができます。実は、対策の本質とはいたってシンプルなものです。

まとめ

「教員の精神疾患による休職を防ぐ」というただその一点にのみ的を絞って対策を考えてみました。現場の方からするとかなり乱暴な言い方だったかもしれません。

しかし、構造的な問題を放置したまま小手先の対策を行っても、精神疾患による休職者は減りません。

ヒトの生理や恒常性を無視したような長時間労働(睡眠不足)、不安(脳内フィクション)、恐怖(現実)をそのままにしておきながら、精神疾患による休職者を減らすことなど絶対にできません。増え続けるだけです。

教育界の専門家の方々におかれましては、教員の睡眠不足、不安、恐怖をどう取り除いていくのか、そこに知恵を絞っていただきたいと切に望みます。



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松村メンタルサポート事務所

代表:松村 英哉(まつむら えいや)

個人のお客さまに認知行動療法にもとづくカウンセリングを行っています。オンラインで対応いたしますので、全国どこからでもご利用いただけます。

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ストレスチェックに関する研修に加え、アンガーマネジメント研修、ハラスメント研修なども行っています。対面方式はもちろん、オンラインでの研修も承ります。▶詳しくはコチラ

保有資格
 精神保健福祉士(登録証番号:第20949号)
 産業カウンセラー(合格証番号:S0605857)
 ストレスチェック実施者資格(受講番号:SCKOTO15111012号)
 社会福祉施設・施設長資格(修了番号:14A2-0486)
 中学校教諭1種免許状・社会(免許状番号:平13中1第20105号)
 高等学校教諭1種免許状・公民(免許状番号:平13高1第21175号)
 高等学校教諭1種免許状・地理歴史(免許状番号:平14高1第22856号)