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職場のコミュニケーション|活性化の課題と生産性向上を図る工夫

より良い職場に必須なものの代表格といえばコミュニケーションです。

この記事では、上司と部下の円滑なコミュニケーションにとって何が重要なのかについて、伝達の正確さや効率性などの方法論ではなく、「働きやすい職場」という視点から考えてみたいと思います。

コミュニケーションとは

「コミュニケーションとは何か」

この問いに対する教科書的な答えは、「人と人とが、情報や事柄、想いなどを、『言語』または、身振り手振りなどの『非言語』を使って送信と受信を行うこと」です。

しかし、「職場のコミュニケーション」という言葉は少しニュアンスが異なっています。

職場のコミュニケーションについて

「職場のコミュニケーション」という言葉には、単に「職場で送信と受信を行う」ということ以上の意味が含まれています。

その意味とは何かというと、「ストレスが少なく、離職率が低く、かつ生産性が高い職場に必要な、送信と受信のあり方」であると私は考えます。

もう少し簡潔に表現してみると、職場のコミュニケーションとは、

働きやすい職場における送信と受信

ということになると思います。

働きやすい職場について

働きやすい職場とは、「何もしなくても給料がもらえる楽ちんな職場」のことではありません。

ストレスが少なく、離職率が低く、かつ生産性が高い職場」のことです。

ここからは、働きやすい職場に関する研究成果である「関係性の調和」、「心理的安全性」、「進捗の法則」をご紹介しながら、より良い職場のコミュニケーションについて考えていきたいと思います。

関係性の調和(Relational coordination)

情報の入手のしやすさがストレスを減らす?

皆さん、ストレスの少ない職場とは人間関係が良い職場だと思っていませんか?

実は人間関係よりも、情報交換のしやすさが職場の心地良さを決めるという研究結果が出ているのでご紹介します。

それは「関係性の調和」という概念です。

マサチューセッツ工科大学の組織論教授ジョディ・ギッテルという人が2009年に発表したものです。「良い職場とは、良い情報交換が行われている職場である」というものです。

「関係性の調和」を一言で表すと、「情報の入手にストレスがない」ということになります。

いかがでしょうか。実感があるのではないでしょうか。なかなか意表を突く視点ですね。

良好な人間関係の7つのポイント

関係性の調和が実現している職場とは下記の7項目が実現している職場です。

 ①情報交換の頻度がちょうどいい
 ②情報交換がタイムリーに行われている
 ③正確な情報交換が行われている
 ④問題解決に向かって会話できる
 ⑤目標が共有されている
 ⑥お互いの役割を把握している
 ⑦お互いに敬意を払っている

人間関係を良くするのではなくて、情報交換が良好であればその組織の人間関係は良好ということです。

全ての組織の人たちを仲良くさせることなんて不可能ですが、情報の取得にストレスを感じなくすることは今すぐにでも実現可能です。

マネージャー職の方には、ぜひ「情報の取得にストレスがない職場」を目指していただきたいと思います。


※出典:『職場のポジティブメンタルヘルス』島津明人編著 誠信書房


心理的安全性(Psychological safety)

心理的安全性という概念は、ここ数年で我が国でも、とても有名になりました。

実は心理的安全性は比較的古い理論で、ハーバード大学ビジネススクール組織行動学教授エイミー・エドモンドソンという人が1999年に発表しています。

どういうものかというと、「チームの中で、対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、という、チームメンバーに共有される信念のこと」と定義されています。

なんのこっちゃ、よく分かりません。実はエドモンドソンの論文は難解で、当時はあまり注目されていなかったようです。

ところが2012年、あのグーグルが、「良いチームとはどのようなチームか」を調査するためのプロジェクト、その名も「プロジェクト・アリストテレス」(かっこいいですね)を立ち上げ、4年間調査をしました。

その結果、離職率が低く、かつ生産性が高い組織に最も重要なのは、このエドモンドソンが発表した心理的安全性であったと結論づけています。

グーグルが発表したことで一躍有名になり、日本でも本が平積みになるほど評判になりました。グーグル恐るべしですね。

4つのコミュニケーション阻害要因

では、心理的安全性の中身に入っていきましょう。

エドモンドソンは、コミュニケーションを阻害するものとして次の4つの要因を挙げています。

 ①無知と思われる・・・[だから質問も相談もしない]
 ②無能と思われる・・・[だからミスを隠し自分の意見を言わない]
 ③邪魔と思われる・・・[だから助けを求めず一人で抱え込む]
 ④否定的と思われる・・[だから議論を避ける]

もしこのようなネガティブな現状認識が頭に浮かんでも、戸惑うことなく適切な行動に変えていくことができる職場、それが心理的に安全な職場です。

何を言っても罰せられない職場

以上より、心理的安全性が確保されている職場では、下記の4点が実現されています。

 ①話しやすいこと
 ②助け合えること
 ③挑戦できること
 ④個性を尊重すること

心理的安全性のポイントを一言で表現すると、「何を言っても罰せられない職場」ということができます。

もちろん、何を言っても良いとはいえ、あくまでも業務を前に進めるための発言です。ハラスメント的な発言は厳禁です。


※出典:『心理的安全性のつくりかた』石井遼介著 日本能率協会マネジメントセンター


進捗の法則(Progress principle)

それでは最後に「進捗の法則」をご紹介します。

これは、ハーバード大学ビジネススクール経営学教授テレサ・アマビールと、心理学者であるスティーブン・クレイマーによって2017年に発表された理論です。

二人は、「ビジネスの成功と社員の幸せは両立可能か」という命題を検討しました。

アメリカの業種も経営状況も様々な7社26職場の社員に、「心に残った今日の出来事をひとつ簡潔に記してメールで送ってください」という課題を37週にわたり行ってもらいました。

大変な作業なので参加者は238人と少ないのですが、そこに記載された内容を詳細に分析したところ、様々なことが明らかになりました。

「私たち労働者は感情に左右される生身の人間である」ことの再発見

まず、生産性を決める要素は組織形態でも報酬でもなく、その人の「思考、感情、意欲」だったということです。

ここで言えることは、「私たち労働者は感情に左右される生身の人間である」という事実です。機械じゃないということです。

私が新入社員の頃(1989年)は、「ここは職場だ、不条理だ、苦しいのが当たり前だ、苦しみ抜いてこそ仕事だ」みたいなことを叩き込まれた記憶があります。

しかし、こと生産性に関しては意味がないということが分かります。

仕事が前に進むことが幸福感につながる

そして社員にとって最もプラスの影響を与えたものは、「仕事が進捗すること」でした。

すなわち上司の仕事とは、「部下の仕事が進捗するように、前に進むように支援することである」ということが言えます。

「情報が手に入った」、「資料が完成した」、「お客さまに提出できた」、「リリースできた」という、仕事が進むことを支援するということです。

労働者に最もネガティブな影響を与えるもの

そして、生産性、離職率、社員の幸福感に最もネガティブな影響を与えるものも明らかになりました。皆さん何だと思われますか?

それは、「上司による進捗妨害」でした。

具体的には、「そんなこともできないのか」、「まだやってるのか」、「やる気あるのか」、「仕事だから我慢しろ」などなど。

そして上司の妨害行為の破壊力は絶大で、ものすごいスピードで幸福度が低下します。

例えば、一日中仕事が順調に進んでいたのに、帰宅前の5分間に妨害行為を受けるだけで、「最悪の職場だ」という評価が下ってしまうのです。

ビジネスの成功と社員の幸せは両立可能か

さらに注目したいのは、「幸福度が高い職場は生産性も高かった」という事実です。

ゆえに、「ビジネスの成功と社員の幸せは両立可能か」という当初の命題の答えは、「両立可能である」という結論が得られたのです。

そしてこの「進捗の法則」で私が一番お伝えしたいポイントは、「上司の影響力は極めて大きい」ということです。

管理職の振る舞いによって生産性も離職率も、時には部下の人生さえも大きく左右してしまうということです。上司とはそれほど重要な立場であるということは覚えておいて欲しいと思います。


※出典:『マネージャーの最も大切な仕事』テレサ・アマビール、スティーブン・クレイマー著 英治出版


職場のコミュニケーションのエッセンス

それではここまでの内容を、職場のコミュニケーションのエッセンスとしてまとめてみましょう。良いコミュニケーションの条件とは次の3点です

 ①情報の入手にストレスがない
 ②業務に関して何を言っても罰せられない
 ③リーダーは仕事が進捗する支援を行う

したがって、これら3点が実現されているコミュニケーションが、望まれる職場のコミュニケーションだと私は考えています。

良いコミュニケーションというのは、言葉遣いでもなく、表情でもなく、身振り手振りでもタイミングでもありません。特に難しいことなど全くない、とてもシンプルなものです。

恐らく、誰もが薄々感じていたはずです

「情報が欲しいだけなのにどうして難癖をつけられるのだろう」、「仕事を進める上でどうしてあの人の機嫌に左右されなければならないのか」、「あの上司さえいなければもっと効率的に仕事が進むのに」など。

「それって自分の我慢が足りないだけなのではないか」と感じて、皆が口にするのを封印してきたことかもしれません。

しかし薄々感じていたことは、科学的にも正しかったということですね。

これらを踏まえて、メンタルヘルスの視点で職場でのコミュニケーションについて提言してみたいと思います。

コミュニケーションを増やし活性化する方法

ダブルバインド(二重拘束)は絶対に使わない

まず管理職の皆さんに配慮していただきたいのは、仕事が前に進む支援を行ってほしいということです。

なぜなら、「何も教えない」、「苦しみこそが仕事である」、「我慢しないと成長できない」という考え方は、生産性、離職率、幸福感には良い影響を与えないからです。

それからもうひとつ。進捗の妨害は行わないでほしいということです。

そして、絶対に控えていただきたい行為が、ダブルバインド(二重拘束)です

ダブルバインドとは二つの矛盾したメッセージを提示し、どちらを選択しても叱責を受ける状態を作り出すことです。

具体的には、「勝手に判断するな」というメッセージと、「いちいち聞きに来るな」というメッセージがセットになった言動です。

あるいは、「自分で考えろ」と言っておきながら、自分で考えたら「勝手なことをするな」がセットになった言動。

はたまた、「いちいち聞きに来るな」と「何で早く言わないんだよ」がセットになった言動などです。

時々こういう手法を取るリーダーがいますが、このダブルバインドの破壊力は絶大で、この状況に置かれると、どんな人でも数か月でメンタル不調に陥ります。

ですから、管理者におかれましては、ダブルバインドではなく、仕事が前に進む支援をお願いします。

相談や質問をためらわない

続いて一般社員の方へ。

相談や質問をためらわないでほしいということです。そして本当に困っている時は次のような趣旨で相談してください。

「今の私にはこの業務を処理する知識(もしくは情報)が不足していて仕事が進まず困っています。助けてください」と。

自然にコミュニケーションが増え活性化することが理想

最後に全ての方へのお願いです。

要請があったらぜひ積極的に情報提供を行っていただき、困っている人の仕事が前に進むようにちょっとだけ力を貸してください

もし情報を持っていなかったら、「その件なら○○さんが詳しいはずだよ」という支援でもいいのです。

これらを気に掛けるだけで劇的に働きやすい職場が実現すると思います。

どうすればコミュニケーションが増えるのか、活性化するのかを考えるのではなく、離職率が低く生産性が高い職場を目指す、そうすることで自然と心地よいコミュニケーションが実現するのです。

まとめ

望ましい職場のコミュニケーションとは、送信と受信の形式や内容ではありません。

送信と受信がどのような目的で行われているかです。分からないことは相談や質問をしてください。要請されたら情報提供してください。

そして最も重要な視点は、「私たち労働者は感情を持つ生身の人間である」という当たり前の事実の再認識です。

そして、心が最も苦しくなるのは上司による進捗妨害でしたね。上司の影響力は絶大です。その大きな力を、仕事が前に進む方向に使っていただきたいと願っています。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。