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精神科医療と復職支援(リワーク)の課題|再休職を防ぐために必要なこと

復職しても短期間でまた再休職してしまうというメンタル疾患の問題に、人事労務担当者が悩まされています。

主治医が発行する復職可能の診断書の信憑性が著しく低下し、何を基準に復職を認めれば良いのか分からない状況になっています。

この記事では、2000年頃から増加した「労働者のうつ」の現状と、復職支援よりも重要と思われる「再発予防支援」についてお伝えします。

精神科医療に現れたニューフェイスの患者たち

かつての精神科医療は人里離れた場所にある精神科病院で、薬が効く精神疾患(統合失調症、躁うつ病、内因性うつ病など)を治療していました。

治療目標は職場復帰ではなく社会復帰、すなわち生活の回復でした。私が勤務していた精神科病院でもそうでした。

ところが2000年を過ぎたころから、都市部の精神科クリニックで、「労働者のうつ」の治療が急速に広がりました。

「労働者のうつ」が急増した原因は不明です。

製薬会社による抗うつ薬(SSRI)のプロモーション説、グローバル化によるビジネス環境の大転換説、IT化の進展によるコミュニケーションの希薄化説など様々いわれていますが、どれが正解なのかよく分かりません(SSRIプロモーション説が有力らしいです)。

診断名としては、うつ病、適応障害、不安障害、うつ状態、ストレス反応など様々です。ごくまれに、見たことも聞いたこともない診断名が付いていることもあります。

そして、本人と面接して症状や経過を伺っても、診断名の違いが何を意味しているのかさっぱり分かりません。皆さん違いがないのです。薬もあまり効果がないように見えます。

自分の診断名についてどう思っているかを本人に確認しても、「さぁ…」とか「よく分かりません…」という答えが返ってきます。「薬は効いていますか?」と質問しても、同じように「さぁ、よく分かりません」という答えが返ってきます。

症状が取れても元のように働くことができない

かつては、薬が効いて激しい症状が落ち着き、地域の日常生活に戻っていく治療が精神科の治療でした。そしてそれが私たち医療者の喜びでもありました。

ところが今は、治療目標が「復職」となりましたが、薬があまり効かず、症状が落ち着いても職業生活に安定的に戻っていくことがとても難しい状況になってしまいました。

私の実感としては、不安、回避傾向、思考の硬さ、コミュニケーション不全などを特徴とする、クリニック発の新しい精神疾患グループとしか言いようのないものです。

そしてこのグループは、服薬と休養によって症状は落ち着きますが、仕事を再開すると直ぐに再発してしまうという特徴を持っています。

主治医に分かるのは症状が落ち着いて元気になった(寛解した)ということだけで、働けるかどうかは働いてみなければ分からないというのが実情です。

厚生労働省の『こころの健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』には、「主治医の診断書は日常生活における回復を判断していることが多いので、働けるかどうかについては産業医等が精査することが重要」と記されています。

主治医には判断できないから会社で判断せよとはひどい話ですが、主治医に分からないものが産業医や会社に分かるはずがありません。

また、「復職可能の診断書があり、本人が働く意欲を示しており、かつ、現在は症状が見えない」のであれば、事業者は本人を復職させなければなりません。これが現実です。

そうすると、早ければ数日で、多くは数か月で再び休職となってしまいます。治療に何かが決定的に欠けているとしか思えない状況となっています。

対象が変わったのに治療が今までと同じでは意味がない

驚くことに、復職を目指している人に、「休職した原因は何ですか?」と質問して答えられる人はほとんどいません。

「主治医は何と言っていますか?」と質問しても、「そういう話は主治医としません」という答えが返ってきます。

「主治医と話し合ったり、自分でも考えてみたりしたが、状況が複雑で結局原因は分からなかった」というのも立派な答えですが、それすらありません。

休職原因を話し合っていないため、当然ながら再発予防策も全く話し合われていません

カウンセリングを受けている人も同様で、休職原因や再発予防策については全くと言っていいほど話し合われていません。

私が懸念しているのは、休職に至ってしまった本人だけの個別の原因を、全く特定せずに治療が進んでいるのではないか、ということです。

リワークデイケアも同様です。リワークはグループワークが中心ですから、その人に特有の個別の原因に焦点を当てて、丁寧に個別の対策を考えることはほとんどありません。

医療の倫理観が休職者を再生産している?

もうひとつ、医療機関(リワークデイケア含む)には「医の倫理」ともいうべき価値観があります。患者第一なのです。

これは患者を甘やかしているのではありません。医療従事者の最も大切な倫理観のひとつです。「つらいならまた会社を休めばいい」、「あなたは何も悪くない」、「あなたはそのままでいい」と伝えるのです。これが精神科医療の倫理観です。

しかし事業者側からすれば、それが精神科医療に対する幻滅につながっているのは間違いありません。

ちなみに、患者の人生そのものにかかわる医療全体からすると、「休まずに働く」という事柄の重要性は、治療のごく一部でしかないということを事業者はしっかりと認識しておく必要があります。

同時に、短期間での再休職がどれほど大きな負担を会社に強いているか、その想像力を医療機関は忘れないようにしてほしいと思います。

新しい疾患グループに必要な治療はタブーなのか

再休職を予防するためには、休職に至った本人側の課題にも焦点を当てなければなりません。

しかし、医療やカウンセリングの現場には、この「本人にも課題がある」的なニュアンスをタブー視し、避けようとしているのも事実です。

しかし、しっかり働いてもらうためには、このタブーに挑戦する必要があります。

個別のきっかけ、個別の認知様式、不合理な行動を本人の課題として捉え、課題への気づきを促して、行動を修正する再発予防策が必要です。

復職後の「本物のストレス」に対しても、その都度、「何がストレスで、それがどのようにあなたの課題(ストレス耐性の低さや、独特の認知と行動の様式など)と噛み合っているのか」というメカニズムを検証しなければ再発は防げません。

最終目標は自己保健義務を履行できるようになること

私は、古典的な精神科病院での治療、クリニックでの「労働者のうつ」の治療、事業者視点の産業精神保健をそれぞれ経験してきました。だからこそ、今何が起こっていて、そして必要とされる治療は何なのかがよく分かります。

精神科の医療機関は「日本の労働環境はうつの製造工場ではないか」と言い、事業者は「日本の精神科医療は何をやっているのだ」と言います。どこまでいっても平行線です。

今必要とされているのは医療と産業の両方の視点を持って支援を行うことです。

再休職を予防、または、再休職までの期間の延長を実現するためには、医療と産業の接点への視点が欠かせません。

治療的で支持的なかかわりを維持しながら、本人が自己保健義務を履行することができるようにサポートすることが重要です。

まとめ

21世紀の精神科医療は、服薬と休養だけでは「元のように働くことができない人」という、今までにない新しい患者群を大量に治療の対象に引き込んでしまいました。

その結果、産業界に対して深刻な疑心暗鬼をもたらしています。しかし後戻りはできません。新しく引き込んでしまった患者たちに対して、新しい治療のアプローチが必要となったのです。

それは、今までタブー視されてきた「本人の課題」にも目を向ける治療です。それなしに産業界からの信頼を得ることは困難でしょう。



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松村メンタルサポート事務所

代表:松村英哉(まつむらえいや)

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保有資格
 精神保健福祉士(登録証番号:第20949号)
 産業カウンセラー(合格証番号:S0605857)
 ストレスチェック実施者資格(受講番号:SCKOTO15111012号)
 社会福祉施設・施設長資格(修了番号:14A2-0486)
 中学校教諭1種免許状・社会(免許状番号:平13中1第20105号)
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