Column お役立ちコラム

メンタルヘルスとセルフケア|心の健康を向上させる方法と改善効果

セルフケアとは、一人ひとりが自主的に行うメンタルヘルスケアのことです。

この記事では、「メンタルヘルス不調とは何か」を説明した上で、「効果的なケアの方法」について解説します。

一般的なストレス発散法よりも少し専門的な内容になっています。

仕事のストレスなどで、日ごろからメンタルが疲れやすいと感じている方は、この記事を参考にして心の健康をすこやかに保っていただきたいと思います。

メンタルヘルス不調を理解しよう

セルフケアの理解を深めるために、ちょっと寄り道をして、先ずはセルフケアのターゲットであるメンタルヘルス不調について理解しておきましょう。

メンタルヘルス不調とは(国の定義について)

厚生労働省が策定した「労働者の心の健康保持増進のための指針」によると、メンタルヘルス不調は下記のように定義されています。

「精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」

以上のように国の指針とは、メンタルヘルス不調に精神障害(精神疾患)を含めたものです。そしてこの定義は、かなり抽象的ですね。

ただ、この「行動上の問題」というのはとても重要な概念です。ここでは、「へえ、そうなんだ」でいいので、ちょっと覚えておいてください。

心の健康を「機能」と「痛み」から読み解く

ではもっと分かりやすく具体的に考えてみましょう。さて皆さん、身体が健康ってどういう状態でしょうか。

それは臓器がしっかり機能して痛みがない状態といえます。健康とは「機能」と「痛み」で捉えることができます。

では、心はどうでしょうか。心の「機能」と「痛み」から、心の健康を読み解いてみましょう。

心の機能

心の機能とは、「生存確率を上げ、遺伝子をよりよく残す行動を選択すること」です。

私たちに置き換えると、「外界を正しく認識し、自分にとって有益な行動を選択して実行すること」となります。

人生とはこの繰り返しですね。

心の痛み

次に痛みです。心の痛みとは一体何でしょうか。

それはネガティブ感情です。

ネガティブ感情とは、宗教、哲学、心理学などによってたくさんの種類がありますが、ざっくり分類すると下記の4つのカテゴリーになります。

 ①嫌悪・憎悪
 ②苦悩・悲哀
 ③不安・恐怖
 ④怒り・怨み

ネガティブ感情とは、身体の痛みと同様に「警報」です。様々なことを強く知らせてくれるとても大切なものです。

例えば嫌悪は、「有害だ、近づくな」です。不安は「まだ見えないが、危険かもしれないから避けろ」ですね。恐怖は「逃げるか戦うか決めろ、さもないと死ぬぞ」という警報です。

メンタルヘルス不調(心が不健康)とはどういう状態か

以上より、私の考えるメンタルヘルス不調の定義を下記に示します。

「過剰なネガティブ感情により、外界の出来事を正しく認識できず、自分を苦しめる行動を選択し、それを有益と誤認して実行してしまう状態

国の定義にある行動上の問題とはこのことです。

メンタルヘルス不調とは究極的には行動がおかしくなること(自分を苦しめる行動を実行してしまうこと)なのです。

行動がおかしくなる原因は過剰なネガティブ感情です。過剰なネガティブ感情を生じさせる元凶は心理社会的ストレッサー(すなわち他者)です。

※ストレスの詳細については、スタッフブログ『ストレスの原因と症状|効果的にストレスを発散・解消する方法について』をご覧ください。より理解が深まると思います。


国の定義では、メンタルヘルス不調に精神障害も含まれていましたが、混乱を防ぐために私の定義では精神障害は含めないことにします。

精神障害(精神疾患)のセルフケアは専門性と個別性が高く、具体的なセルフケア(再発予防)の方法を、一般論として説明することは困難だからです。

セルフケアの目的(セルフケアとは何をすることか)

さてここまで、セルフケアのターゲットとなるメンタルヘルス不調について見てきました。

メンタルヘルス不調とは「行動がおかしくなること=自分を苦しめる行動を実行すること」でした。

ということは、当然の帰結としてセルフケアの目的とは、「自分を苦しめる行動を修正し、新しい行動を実行すること」となります。

ところでメンタルヘルスというものは、何を説明するにしても前提条件や言葉の定義がしっかりしていないと理解が中途半端になってしまうものです。

ということで、ここまで説明してやっとセルフケアの内容に進む準備が整いました。

自分を苦しめる行動を変えるとは具体的にどういうことなのか、次章以降を見ていきましょう。

セルフケアの方法

皆さん、職場のストレスチェックは受けましたか?

ストレスを語るうえでやはり「仕事」という視点は欠かせません。なぜなら、仕事とはストレスが常につきまとう活動だからです。

ここからは労働者のセルフケアを軸に解説していきますが、それは私生活での不調のセルフケアにも応用できるものです。

仕事上であっても私生活上であっても、セルフケアの方法に本質的な違いはありません。

高ストレス者のセルフケア

※「高ストレス者」について詳しく知りたい方は、スタッフブログ「ストレスチェックを受けるメリット|受検の目的と有効性について」をご覧ください。

高ストレス者①(ストレスを受けやすい状況にある人)

そこそこストレス反応(症状)が出ているけど、周りに頼れない(頼ってはいけない)と感じている方は、自分の考え方や物事の捉え方を検討してみる必要があります。

「ストレスを減らすための行動が取れない(取らない)のはなぜなのか」と。

ちょっと思考実験をしてみましょう。試しに次のように考えてみてください。

自分のストレス反応を軽減させる行動を実行したら、どんな悪いことが起こるのか?


例えば、上司に現状を相談してみるとか、無理な仕事は断ってみるとか、今日だけ定時で帰って早く寝てみるとかです。

その時に頭に浮かんだ考えやイメージはどういうものでしょうか。

脳が勝手に作り出すバーチャルなイメージですから、論理的に破綻していても構いませんよ

よ~く考えてみて下さい。

その考えやイメージは現実に起こり得るものでしょうか。

もし実際には起こりえないもの、あるいは起こるにしても確率は非常に低いものであるのに、それを怖がって行動を起こしていないのだとしたら...

それこそ取り越し苦労というものです。今までのストレスは一体何だったのでしょうか。

状況は変わらなくてもストレス反応は減らせる

人は時にこのような思考やイメージ(不合理な信念と呼びましょう)に基づいて、自分を苦しめる行動を実行してしまうことがあります。

自分はいつもストレスを抱えていると感じる人は、この「不合理な信念」に基づいて行動していないかを一度検証してみる必要があります。

もしそうなら、その行動を修正して、次からはストレスを減らす合理的な行動に変えてみましょう。

不合理な信念で行動していた人が合理的な行動を取ろうとすると、初めはかなり怖いと感じるはずです。

しかし勇気をもって行動してください。イメージ通りの悪いことは起こりません。なぜか。そのイメージはバーチャルだからです

状況は何も変わらなくても、考え方や行動を変えるだけで、ストレス反応が減ることがあるのです。

高ストレス者②(既に多くのストレス反応が生じている人)

心身の症状だけで高ストレス者と判定された方は、最低でも毎日7時間以上の睡眠を確保するという行動を実行してください。

加えて、良い睡眠のために、お酒を今の半分以下にするか禁酒してください(アルコールは睡眠の質を著しく低下させます)。

毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるという行動を実行してください。例えば「23時に就寝し、7時に起床する」というように具体的に決めてください。

抽象的では絶対にダメです。

そして自分で決めたこの睡眠リズムを守ることを条件に、一日のスケジュールを組んでください。

自ずと退社時間が決まるはずです。これを最低2週間、できれば1ヶ月続けてください。当たり前ですが心身ともにずいぶん楽になるはずです。

ストレス反応を減らすためには睡眠をしっかり取ることが絶対条件です。

いつも慢性的な睡眠不足にもかかわらず、ストレス反応が軽減されることは絶対にありません。睡眠をしっかり取るためには残業を減らして帰宅時間を早めるしかないのです。

帰宅時間を早められない人、すなわち早く退社することが怖い人は、先に挙げた「不合理な信念」がないかを検証してください。

不合理な信念ではない現実のストレッサーへの対処

ここまで検討して、

「私のストレス反応は自分が行動しないからではない。多すぎる仕事やハラスメントが原因だ。すなわち現実的な問題だ」との結論に達した方は、今すぐしかるべき人や窓口に対処を依頼してください。

それをしなければ、世の中にあふれるストレス発散法をいくら試したところで、長続きしないうえに、ストレス反応は減りません。

行動しなければストレスは減らない

労働者の宿命として、ストレッサーを自力で排除することはとても難しいものです。変えることができるのは自分の行動です。

仕事上のストレス問題というのは、「ストレスを受け続けるか、それとも早く帰って寝るか」という二者択一であるということを忘れないでください。

ストレス発散法の情報が世の中にあふれているにもかかわらず、皆さんのストレス反応が減らない理由は、ストレスを減らす行動を実践していないからに他なりません。

ストレス反応を減らす行動を実践した人だけがストレス反応を減らすことができるという、当たり前の原理をしっかりと覚えておいていただきたいと思います。

行動を変えることが難しい方は専門家に相談を

睡眠時間は十分にあって残業も少ないのに、例えばHSP気質などが影響して様々なストレス反応に苦しんでいるのであれば、カウンセラーなどの専門家に相談されることをお勧めします。

また、気分の落ち込みや睡眠障害、趣味も手につかないような意欲低下が長期間(2週間が目安です)続いている方は、セルフケアだけでは回復しない可能性がありますので、医療機関か、適切な判断ができるカウンセラーに相談することをお勧めします。

※認知行動療法について知りたい方は、スタッフブログ「【心理カウンセリングの効果と意味】傾聴と認知行動療法について」も併せてお読みください。

まとめ

メンタルヘルス不調とは「自分を苦しめる行動を実行している状態」です。

セルフケアとは、「その行動を修正し実行すること」です。

いたってシンプルなものですが、「不調の原因はあなた自身の『不合理な信念』です」と唐突に言われても納得できないことでしょう。

しかし、心の健康を保つためには、日ごろから「不合理な信念」を客観的に眺めてみる必要があります。

そしてこう自分に問いかけてほしいのです。

ストレスを減らす行動を実行したら、どんな悪いことが起こるのか」と。

これが全てのスタートです。

「悪いことは起こらないかもしれない」と感じたら、たとえ怖くても、自分を助ける行動を実行していただきたいと思います。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。