Column お役立ちコラム

【心理カウンセリングの効果と意味】傾聴と認知行動療法について

心理カウンセリングに興味がある方のために、カウンセリングと認知行動療法の違いと基礎知識を分かりやすくご紹介します。

ぜひ最後までご覧ください。

苦しみの原因は2つ(正常な生理現象とバーチャルな苦悩)

悩みや苦しみには2種類あります。

ひとつは「事実による苦しみ」です。経済問題やハラスメント、大切な人を失うなど、良くない出来事が実際に起きている場合です。

この苦しみは全ての人にとって自然な心の働き(生理現象)ですので、その働きを取り除くような介入は必要ありません。カウンセラーは自然治癒力による回復が早まるように支持的に寄り添います。そして具体的な解決策を一緒に考えていきます。

したがって、このような自然な心の働きを病理現象であるかのように扱うことは厳に慎まなければなりません。

もうひとつは、「バーチャルな苦しみ」です。悪い出来事は起きていないのに苦しんでいる状態、主観だけで苦しんでいる状態です。

「そんなばかな。悪いことが起きていないのに苦しむなんて」と思うかもしれません。

しかし、実はこのようなバーチャルな現象は私たちの心の中で日常的に起こっています。脳の仕組みとして避けることのできない宿命的な現象です

そしてこの「バーチャルな苦しみ」がとても強く、行動にまで悪い影響を及ぼしているときに、心の働きを修正するための介入(認知行動療法)を行うことになります。

「バーチャルな苦しみ」だなんて、ちょっとびっくりしますよね。

でも心配はいりません。バーチャルと言っても「うっかり思い込んでいる」という状態で、誰かからの指摘で「なるほどバーチャルだ」と現実的に振り返ることができるものです。

でもこのバーチャルがなかなかの厄介者です。本人にとってはそれが「現実の苦しみ」なのですから

それでは、「事実による苦しみ」と「バーチャルな苦しみ」について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

事実による苦しみ|傾聴のカウンセリングの効果

良くない出来事を実際に体験して、悲しくて、悔しくて、気分が落ち込むというのは、人としてごく自然な心の働きです。

通常であれば時間とともに癒されていきます。しかし時には苦しみがなかなか消えなくて、何も手につかず、眠れず、食欲も落ちてしまうということがあります。

このような状態を整理するのに最も効果的な方法は「誰かと話すこと」です。悩みをしっかりと聴いてもらうと気分がすっきりして、不安が小さくなり、前向きになれます。

では人と話すとなぜ気分がすっきりするのでしょうか。その理由として次の3点が挙げられます。

①言語化によって頭の中が整理されるから

誰かに悩みを話すことで、混乱していた頭の中が自動的に整理されます。

人と話すということは、主語と述語を使って論理的に語る必要があります。この、頭の中を論理的に組み立て直す過程がとても重要です。頭の中で脈絡なく広がっていたマイナスの考えやイメージが自動的に整理されます。

その結果、「あれ、結局こういうことだったのか」、「全てダメってわけでもないな」と、客観的に出来事を見つめ直すことができるようになります。

そうすると「くよくよしていても仕方がない」と、前向きなエネルギーが自然に湧いてきて、解決に向かう行動を起こすことができるようになるのです。

②相手が人だから(人は共感を伝えることができるから)

悩みを紙に書き出したり、ぬいぐるみやペットに話しかけたりすることも言語化ですから、心の安定にとても効果があります。

しかし人と話すほうがもっと効果があります。なぜかというと、人は共感を示すことができるからです。気分をすっきりさせるには誰かに共感してもらうことが必要です。

皆さんが愚痴を聴いてもらおうとするとき、アドバイスばかりする人より、じっくりと話を聴いて共感してくれる人を選ぶと思います。これは気持ちの整理に不可欠な自然な心の働きなのです。

③あるがままの自分に気づくから

否定されたり批判されたりしない安全な環境で体験を語り、相手から共感を伝えられると、誰かから与えられた「ねばならぬ自分」や「見せかけの自分」というものに気づけるようになります。

すると、本当の欲求にもとづく自分、すなわち「あるがままの自分」に気づくことができるようになります。

「あるがままの自分」に気づくと、あなたの行動が「誰かの願望を叶えるため」ではなく、「自分のため」へと変わっていきます。

「本当の私はこういう人間だ。だからこういう行動を選択するのだ」と、「自分」と「行動」が一致していきます。この一致した状態に、苦しみを遠ざける効果があると考えられているのです。

以上のように、「事実による苦しみ」に対してカウンセラーは、言語化を促すために傾聴や質問の技法を使い、共感していることを言葉や態度で示すことで、相談者の「あるがままの自分」に気づいてもらえるように支援します。

この傾聴の技術は「事実による苦しみ」に対してだけではなく、全てのカウンセリング技術の基礎にもなっています。

なお、「事実による苦しみ」であっても、その苦しみがあまりにも強い場合には、「バーチャルな苦しみ」に変化している可能性があります。

その時は心の働きと行動を修正するための介入(認知行動療法)を行うことになります。

バーチャルな苦しみ|認知再構成法の進め方と効果について

私たちは、「考えていることは事実だ」と自動的に認識しています。しかしこれは正しくありません。思考は事実ではありません

私たちは何かを体験すると、ある考えやイメージが一瞬で意識に浮かびます。同じ体験をしても、どんな考えやイメージが浮かぶかは人によって異なります。

マイナスの考えやイメージが浮かぶと気分は落ち込みます。逆にプラスの考えやイメージが浮かぶと気分は上向くのです。

ということは、「今日は楽しかった!」と気分が上向いても、悲しいかな、厳密にはそれは事実ではなく思い込みということになります。

しかし安心してください。いい気分というのはどこにも悪い影響を与えませんので、そのまま喜んで受け入れて全く問題ありません。しっかり喜んでくださいね。

問題は気分が落ち込んだ時です。

悪い気分の原因は一瞬で意識に浮かんだマイナスの考えやイメージです。単なる一過性の心の中の出来事でしかないものを、まるで事実であるかのように認識してしまうのです。

これが「バーチャルな苦しみ」です。

実はこの「バーチャルな苦しみ」に傾聴だけを続けると、さらに苦しみが強くなる危険性があります。傾聴することによってバーチャルな考えやイメージを再体験し、苦しみを強化してしまうからです。

ではどうするかというと、思考の書き換えを行います。

先ず、意識に浮かんだマイナスの考えやイメージをなるべく正確に書き出して文章にします(これを自動思考と呼びます)。

そして、自動思考を裏付ける客観的事実を挙げていきます(これを根拠と呼びます)。

次に、自動思考をひっくり返すように、客観的な事実だけを使って反論をしていきます(これを反証と呼びます)。「でも」とか「だって」というあいまいな疑問をぶつけたくらいでは元に戻せないレベルにまで、純粋に客観的な事実のみで反論していきます。

最後に根拠と反証を、「しかし/けれども」でつなぎます。そうしてできあがった文章が、書き換えられた「新しい考え」になります。

「新しい考え」を読むと、最初に意識に浮かんだマイナスの考えやイメージが自動的に否定され気分が改善します。

そして気分が改善したことで生じたプラスのエネルギーを、新しい行動を起こすエネルギーに変えていくのです。

※要するに、「それってあなたの感想(自動思考)ですよね。客観的なデータがあるなら教えてもらっていいすか」と、人気ユーチューバーの論破術を自分に対して行うことに近いですね。

これは認知再構成法と呼ばれる技法です。皆さんの中には受けたことがある方もいるかもしれません。そして、効果をあまり感じなかったという方も多いのではないでしょうか。

認知再構成法はとても体系的に進めることができるので広く用いられていますが、実はとても難しい技法です。

イメージと客観的事実を何度も何度も検証して、洗練させて、さらに検証して、やっと新しい考えに書き換えることができるからです。この過程を絶対に省いてはいけません

ACT:Acceptance Commitment Therapy
(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)

さて、状況がもっと深刻になると、認知再構成法で新しい考えに書き換えても、すぐに元のマイナスの考えやイメージに戻ってしまうようになります。

ストレスの原因に関するキーワード(例えば苦手な人の名前など)を見たり、聞いたりするだけで、いもづる式にぐるりとイメージが元に戻ってしまうのです。こうなると新しい考えに書き換えても効果はありません。

ではどうするか。考えやイメージはいったん横に置いておいて、合理的な新しい行動を先に実行してしまうのです。

どうやってマイナスの考えやイメージを横に置いておくのか、新しい行動は何か、さらに、どうすれば新しい行動を実行に移すことができるのかをカウンセラーと考えていきます。これらの手法のひとつがマインドフルネス(瞑想)です。

そしてこれが最も重要なことですが、新しい行動を起こしたあと、マイナスのイメージ通りの悪いことが実際に起きたかどうかを必ず検証します。悪いことはほとんど起こらないことに気づくでしょう

悪いことは起こらないということが分かれば、どんどん行動していきます。行動できると気分が改善し、ますます良い行動が増えるのです。これが、ACT:Acceptance Commitment Therapy|アクセプタンス・コミットメント・セラピーです。

行動を変えることはとても難しい!

ところで、「行動を変える」と一言でいっても実はとても難しいものです。

なぜなら、マイナスの考えとイメージからの「強い命令」によって、今の行動を選択しているからです。「今の行動が最も安全だ」と思い込んでいるので、行動を変えることが難しいのです。

具体的に見てみましょう。

例えば、ある人が自分だけでは解決困難な問題に直面したとします。「困ったぞ、誰かに相談しなければ」と思った瞬間、「相談すると無能と思われる」という考えやイメージが浮かんだとします(実際に多くのうつ病の方がこのイメージを持っています)。

すると、その人にとって「相談すること」とは、無能が明らかになる行為ですから、恐怖の対象となります。そして誰にも相談せずに一人で問題を抱え込むようになるのです。

では、ここでの望ましい行動とは何でしょうか。それは、「私だけではこの問題を解決できません。助けてください」と誰かに相談することです。

しかし、相談しようとすると(行動を変えようとすると)、無能が明らかになるので(本当は無能ではないのに!)怖くて相談できない(行動を変えられない)ということになります。

自分をますます苦しめる行動が、自分を守る一番良い方法だと信じてしまっているのです。

そして、この状況の最も悲劇的な点は、このパラドックスに本人が全く気づいていないことです。そのため「一人だけで解決しようとすること」を決してやめません

その結果、心身ともに疲弊し、会社を休んでしまい、精神疾患に陥ることすらあるのです。「バーチャルな苦しみ」に陥っている場合、新しい行動を起こすことはこれほど難しいのです。

私のカウンセリングでは、このパラドックスの検証を必ず行っていきます。

ちなみに、完璧主義を手放すのがとても難しいのも同じメカニズムです。「完璧以外は無能である」、「ミスをする自分に存在価値はない」という考えやイメージが意識に浮かんでいるので手放せないのです。

カウンセリング/心理療法はあなたの人生を豊かにします

カウンセリングは、あなたの失敗や能力の無さが招いた恥ずべき終着点ではありません。カウンセリングとは自分を変えるために環境に働きかけようとする前向きな行動です。

心理カウンセラーの仕事とは、あなたの悩みの原因(ほとんどが人間関係です)を取り除いたり、ゆううつや不安をきれいさっぱり消し去ったりすることではありません(そんなこと誰にもできません)。

悩みの原因や、自分の行動を不合理にしているイメージを明らかにし、どのような行動を起こせばよいのかを検討し、その行動を妨げる要因を見つけて、それを乗り越えるにはどうしたらいいのかを一緒に考えていくことです。

決して権威的に決めつけたりしません。あなたのペースで、あなたの安心できる環境で、カウンセリングを進めていきます。

カウンセリングとは、あなたを苦しめることのない、未来に対する合理的な行動です。カウンセリングはあなたの暮らしと人生を豊かにするために存在しているのです。

まとめ

悩みや苦しみには2種類あります。ひとつは正常な生理現象である事実による苦しみ、もうひとつは主観のみのバーチャルな苦しみです。

生理現象には傾聴で対応します。そして、バーチャルな苦しみに対しては認知行動療法という心理療法を用います。

傾聴のカウンセリングも心理療法も、最終的な目標は行動が変わることです。しかし行動を変えることはとても難しいものです。だからこそ、行動が変わるまで支援するのが本来のカウンセリングであり心理療法です。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。