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トラウマを除去して消す方法は存在するのか?|PTSDの症状と治療について

トラウマが原因とされるPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)ほど議論の絶えない病気はありません。

治療法もたくさん紹介されていますが、どれも科学的に効果が実証されていないなど、とてもつかみどころのない病気です。

この記事では、トラウマとPTSDについての全体像を、中立的な立場から解説してみたいと思います。

トラウマとは何か?

トラウマ(trauma)とは障害や病気の名前ではありません。心的外傷と訳される「心の傷」のことです。精神的な苦痛をともなう恐ろしい出来事を経験することで生じるとされています。

恐ろしい出来事とは、自然災害や交通事故、レイプなどの性被害、殺人未遂や暴行などの犯罪被害、戦争などです。

このような恐ろしい出来事を経験すると、どんな人でも無気力になったり、その場面を鮮明に思い出したり、悪夢を見たりといった症状が現れます。

しかし、通常は時間とともに消えていきます

ところが、1か月以上たっても症状が消えない場合、PTSDと診断される可能性が高まります(過去のトラウマがPTSDの直接の原因になっているという証拠はまだ見つかっていませんが)。

PTSDの症状

PTSDの症状は以下の通りです。

出来事を突然思い出す(侵入症状)

恐ろしい出来事の記憶が突然よみがえります。トラウマに関連した悪夢を繰り返し見ることもあります。また、恐ろしい出来事が実際に起こっているように感じるフラッシュバックが生じることもあります。

似た状況を避ける(回避症状)

恐ろしい出来事と密接に関連することを考えたり思い出したりしないように努力します。また、恐ろしい記憶を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、行動、状況など)を回避しようとします。

否定的になる(認知と気分の陰性の変化)

過剰な自己嫌悪や罪悪感、恥の感覚、他者や社会に対する否定的な信念が見られるようになります。また、幸福感や満足感、愛情を感じることができなくなります。

いつも警戒している(覚醒度と反応性の著しい変化)

激しい怒り、無謀で自己破壊的な行動(暴飲暴食など)、過度な警戒心、些細な刺激にも過剰にビクッとする驚愕反応、集中困難、睡眠障害などが現れます。

PTSDの診断について

恐ろしい出来事を体験したあと、上記の症状が1か月以上続き、それによって苦痛を感じ、日常生活や仕事に支障をきたしている場合にPTSDと診断されます。

PTSDの発症率は、何を体験したかで異なります。自然災害では、被災者が経験する衝撃度に幅があるため数%程度、レイプや戦闘体験では50%以上といわれています(厚生労働省『みんなのメンタルヘルス』)。

PTSDは過剰に診断されやすく、「疾病利得」(症状を訴えることで何らかの利益を得ている)状態にある患者が多いと主張する専門家もいます。

恐ろしい記憶がトラウマになるメカニズム

人は恐ろしい状況に直面すると、自律神経系のストレスシステムが作動して「逃げるか戦うか」を一瞬で判断します。

「勝てる」または「逃げられない」と判断すると、怒りの感情が生じて敵に襲い掛かります。戦いに勝つと、ストレスシステムは正常に完了して、通常の状態に戻ります。この時、トラウマは生じません。

逆に、「勝てない」と判断すると恐怖の感情が湧き起こって逃げ出します。うまく逃げることができると、恐怖の状態は正常に完了します(ホッとした状態)。この時もトラウマは生じません。

「戦うことも逃げることもできない状況」に陥ると、敵(災害)の攻撃を受けるしかなくなります。この時、「凍りつき」という状態に陥ります。もう死ぬしかないと観念した状態です。

凍りつきの状態になると抵抗することをやめ、体が固まって動けなくなります。この時、エンドルフィンなどの内因性オピオイドという麻薬性の物質が体内に放出され、苦痛を感じにくくします。

凍りつきの状態にまで達すると、その記憶はトラウマになると考えられています(ただ、凍りつきの状態からトラウマが生じるメカニズムは、科学的に解明されていません)。

PTSDの治療

PTSDを発症するメカニズムを明らかにして、治療法を確立するべく、世界中の科学者が懸命に研究していますが、残念ながらまだ道半ばです。

心理学の流派によって数多くの手法が提唱されていますが、まさに百花繚乱です。いくつか挙げてみましょう。


曝露法/弁証法的行動療法/マインドフルネス/認知処理療法/ナラティブ・エクスポージャー・セラピー/

ソマティック・エクスペリエンス/センサリーモーター心理療法/ボディナミック分析/眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)/神経言語プログラミング/思考場療法/

対人関係療法/精神分析療法/催眠療法/スピリチュアル・セラピー/身体療法(マッサージ、指圧、ピラティス、ヨガなど)/ブレインスポッティング etc.


まだまだありますが、このくらいにしておきましょう。

これらの心理療法は、「トラウマ記憶に直接はたらきかけるもの」、「思考・感情・行動を扱うもの」、「身体感覚にフォーカスするもの」、「身体に触れるもの」、「無意識を前提にするもの」などに分類されます。

そして、どの治療法が効果を発揮するかは、個々の患者によって異なります。それだけ患者の側が多様だということです。

患者が多様ということは、 PTSDの直接の原因が、「過去のトラウマ」だけではないかもしれないということを意味します。

ちなみに、数ある治療法の中で最も効果が認められているのは曝露法です。しかし、心理的な苦痛を伴うため、脱落率も高くなっています。

PTSDの治療方法は百花繚乱―その意味すること―

トラウマとPTSDに関する議論を概観してみましょう。

トラウマは存在するのか?(原因論と目的論)

個人心理学(アドラー心理学)では、トラウマは一切存在しないという立場を取ります。

PTSDはトラウマによって生じている(これを原因論と呼びます)のではなく、何らかの目的を達成するために、「症状」を自ら作り出していると考えます(これを目的論と呼びます)。すなわち疾病利得の状態です。

とても刺激的な考え方ですね。

とはいえ、実際に疾病利得に陥っているとしか思えない患者さんがいることも確かです。

催眠療法による虚偽記憶の形成

催眠状態で記憶をさかのぼり、トラウマとなる体験を「思い出す」ことを援助するのが催眠療法です。

催眠によって「思い出した」記憶が事実かどうかは問いません。というより、「催眠状態で思い出した記憶であれば、それは真実である」とし、そのトラウマがPTSDの原因であると判断します。

その結果、虚偽記憶が形成されることがあります。

カウンセラーが「見つけ出す」過去のトラウマ

催眠下での虚偽記憶ほどではありませんが、カウンセラーが「見つけ出す」トラウマもあります。

現在の苦しみや症状の原因を、当人もほとんど忘れかけていたような過去の出来事(ほとんどが幼少期です)の記憶に結びつける手法です。

成育歴をさかのぼり、幼少期のどこかに大変な体験が見つかると、その体験がトラウマになっていると判断します。

そして、「幼少期のトラウマを処理しない限り、今の苦しみや症状は続く」としてカウンセリングを進めていきます。

こちらも誤った記憶が形成される危険性があり、かえって長く苦しむことになりかねません。

PTSDという病気は存在するのか

過去のトラウマがPTSDの直接の原因となっているかどうかは、現状では確たる証拠はありません。しかし、PTSDの診断基準をクリアする病態は確実に存在します。これは間違いありません。

ただ、気をつけなければいけないのは、過剰診断による「PTSDもどき」の存在です。これはカウンセラーと患者さんの共同作業によって、誤った記憶と疾病利得を生み出してしまう危険性があります。

「過去のトラウマが現在のPTSD症状の原因である」という因果関係は証明されていません。この事実を厳粛に受け止め、誤った記憶と疾病利得が形成されないように細心の注意を払う必要があります。

まとめ

PTSDの治療法が百花繚乱なのは、PTSDの発症メカニズムが解明されていないからだと思います。

トラウマとPTSDの因果関係が証明されていない現状では、一人ひとり異なる現在の症状に注目しなければなりません。過去ではなく、未来に対して何ができるのかという視点で治療を進めるのが良いと考えています。

帰還兵や被災者でない限り、実際にトラウマ体験があったかどうかを客観的に知ることはできません。

カウンセラーが確認できない過去の記憶をもとに、「その記憶が現在の症状を生み出している」と、安易に結論づけることは避けなければなりません。



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松村メンタルサポート事務所

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